お問い合せ |
■アンケート調査結果 | |||
調剤薬局に勤務する薬剤師を対象に2006年8月から11月にかけてアンケート調査を行なった。66件の調剤薬局を回り42件のアンケートを回収した。50ページのアンケートを回答していただいた件数が24件、ある程度のデータ数が集まったところで25ページのアンケートを18件に回答していただいた。また、アンケートの3割は勤務年数が3年未満の新人薬剤師の回答であり、残りの7割は薬局長による回答である。本来は薬局長のみの回答を考えていた。というのも、薬局長、あるいは経営者は薬局業務の全体を把握しているために薬局全体の標準作業、及びヒューマンエラーの発生頻度に関して質の高い回答が得られると考えられるからである。その中で新人薬剤師に回答していただいた経緯としては、本研究が提示した400のヒューマンエラーの中でもどのようなエラーが発生し易いのかを把握するためである。新人薬剤師がヒューマンエラーを起こしやすいのは自明であるが、どのようなヒューマンエラーを起こしやすいのかは必ずしも自明ではないからである。例えば、発生するヒューマンエラーの中で規格間違いが多いというのは誰もが知っている。しかし、規格を読み間違えるのか、規格を取り間違えるのか、あるいは処方が誤った規格を見逃してしまうのかといった細かいヒューマンエラーの発生頻度までは把握されていない。それらを局所的に知ることが出来れば、後に対策案を考えるときに非常に便利である。よって、ヒューマンエラーを起こしやすい新人薬剤師にも回答をしていただくこととなった。 アンケート調査から得られた情報は大きく分けて 「どのような作業手順で仕事をしているのか(標準作業)」 「ヒューマンエラー(調剤失敗モード)の発生頻度はどの程度か」 「ヒューマンエラーに対してどのような対策を講じているのか」 の3種類である。これらの得られた情報を分析し、調剤FMEAに組み込んだ。 それではアンケート調査の結果の詳細を以下に示していきたい。 1.アンケート調査を行なった地域 2.薬局における標準作業のアンケート調査結果 3.ヒューマンエラー(調剤失敗モード)の発生頻度におけるアンケート調査結果 4.薬局におけるヒューマンエラー対策案の調査結果 |
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■アンケート調査を行なった地域 |
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アンケート調査の約80%を東京都で行い32件を回収し、次が埼玉県で6件である。愛媛県では2件回収し、長野県、神奈川県は各々1件のアンケートを回収した。東京都での内訳は以下のようになる。 | ||||
文京区の割合が一番高く、次いで千代田区が高い。文京区を回った理由としては中央大学理工学部の認知度が高いことが挙げられる。薬剤師会や薬学部の教授の推薦がない状況で信頼を得るためには大学自体を良く知っている地域で調査を行うことが必要不可欠と考えていたからである。また、千代田区に関しては千代田区薬剤師会の推薦が得られたことが理由で多くの調剤薬局を回ることができ、回答率も高まったといえる。 | ||||
■薬局における標準作業のアンケート調査結果 |
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調剤FMEAを行なうためには薬局の標準作業を確立することが必要となる。本研究ではアンケート調査を行なう前に、ある薬剤師に協力を依頼し、その薬剤師が勤務している薬局の作業手順が標準作業であると仮定し、作業手順を作成した。その上でその作業手順を回答者に提示した。そして回答者に、その作業が回答者自身の作業と「完全に一致しているか」「一部一致しているか」「一致していないか」に関する評価、及び手直しをしていただいた(下記参照)。 | ||||
標準作業における調査結果は以下のようになる。 |
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標準作業における調査結果(人数) (クリックすると拡大) |
標準作業における調査結果(%) (クリックすると拡大) |
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※作業NO1は本研究で提示した作業手順である。作業NO2〜6は新たに薬剤師が回答した作業手順である。また、その他は、基本的には回答が無記入であることを表している(「一部一致」や「一致していない」に○を付けているが、修正がされていなかったり、作業手順が書かれていない場合も無記入と考えてその他に含んでいる) 集計結果からわかるように、多くの回答者が作業NO1と一致していると考えているため作業NO1を標準作業として確立することができた。そして、その中で標準作業が2通り存在したのは疑義照会と計量調剤(散剤:分包前)及び最終鑑査の3種類であった。また、13、14の一包化においてその他が多いのは、完分機(機械の中に薬品が入っていてPC操作だけで自動的に分包してくれる機械)を持っている薬局が少ないからである。つまり、今回協力していただいた薬局のほとんどが一包化の際に手でまいている現状であった。しかしながらその代わりとして、これらの薬局の回答から新たな作業「一包化(全て手で分包する)」を追加することが出来た。 そして、確定した標準作業を調剤FMEAに組み込んだ。 |
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■ヒューマンエラー(調剤失敗モード)の発生頻度におけるアンケート調査結果 |
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FMEAを行なう際にはより多くのヒューマンエラーを導出しなければならない(FMEAとは)が、本研究における調剤FMEAでは自動化を前提に行なっているため、これらのヒューマンエラーの導出を予め行なっている。本研究ではアンケート調査を行なう前に、いくつかの文献を参考にし、さらに、ある薬剤師とブレーンストーミングを行なうことによって453個のヒューマンエラーを導出した。アンケート調査は本研究で提示したこれら453個のヒューマンエラーが実在するのかを確認するために行い、さらにその発生頻度(5点:日常的にありそうである。4点:一年に数回はありそうである。3点:一年に一度位ありそうである。2点:一年に一度はないがありそうである。1点:絶対にないだろう。0点:記載されているヒューマンエラーの内容がよくわからない)を回答していただいた。アンケート調査結果は以下の図のようになる。 | ||||
集計結果から、本研究で提示したヒューマンエラーが実在するか否かを確認することができたのと同時に、発生する度合いを知ることが出来た。アンケート調査によって得られた発生頻度は調剤FMEAに組み込んだ。 日常的に起こるようなエラーに関しては多くの薬局が対策を行なっているといえる。しかしながら、あまり表に出ていないようなエラーに関しては対策を講じきれていないだろう。集計結果から「一年に一度はないがありそうである(評価点:2点)」が全体の約半分を占めていることがわかる。つまり、あまり表に出ず潜在しているヒューマンエラーがあらゆる作業の中に数多く存在しているといえる。よって、調剤FMEAを用いてそれらのエラーの中から特に重要なものを洗い出し、表に出すことは非常に意味のあることである。 |
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■薬局におけるヒューマンエラー対策案の調査結果 |
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調剤薬局から得られた対策案(原始データ)を調剤FMEAにリンクできるように、「対象となる調剤失敗モード」「エラープルーフ化」を新たに追加して対策案のカスタマイズを行った。原始データとカスタマイズされた対策案は以下に示す。 | ||||
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調剤FMEAを行って重要度を算出し、対策するべき調剤失敗モードが確認できたらこれら35個の対策案を参考にしながら独自に対策を講じていくのが望ましい。また、今後は対策案の数を数百、数千に増やしてどの調剤失敗モードに対しても対策案が促せるようなアプローチが必要である。 | ||||