産業キャリア教育プログラム~授業紹介~
トップ> 産業キャリア教育プログラム~授業紹介~> 【技術論3】日立製作所 第3回「社会の情報化2」
本日は前回の本間先生の講義の続きです。講義の前に出席・感想カードに記載されていた質問に関しての回答を下さいました。その一部を記しておきます。
質問1 研究所といっても、SEの仕事と大きく変わらないのですか
回答1 前回は企業情報システムの構築のケースを紹介してきたので、SEよりの仕事を多く紹介したが、研究よりの仕事も多い。
企業システムに向けたコンセプト研究の例として、『自律分散コンセプト』を紹介していただきました。これはマイクロコンピュータ出現により、分散システムの普及を予測し、理想の分散システムのコンセプトです。生物に見られる自律分散的振る舞いを模倣し、自律した複数の個がお互いに自律性を保ちつつ行動し、場を通じて大域的秩序を形成し、全体として制御や管理を行うようにしようというのが趣旨です。システムが常に、成長し、何時でもどこかで保守や拡張、更新が行われているようにするために、1つ1つが自律したシステムでありながら、分担作業を行うようにするというものです。
このコンセプトは、生物界の個体と群れの関係をヒントにして生まれました。蟻一匹でも自律したシステムですが、遺伝子同一で、機能を分担、共同作業で群れ(コロニーシステム)として活動しています。管理者はいないので、命令されて動いているわけではない。それにもかかわらず、全体としての共同作業は継続して行うことが可能です。これは、細胞と個体の関係でも言えます。細胞一個でも自律したシステムですが、全体として一つの機能を担っています。ヒドラは切断しても再生し、細胞を乖離しても無秩序集合体から再生していきます。
このようなコンセプトを持った実際のシステムはどのようなものなのかも解説していただきました。データ形式=内容コード+データとし、内容コードによる柔軟性のある制御を行います。計算機制御システムでの期待効果は以下の3つです。
(1)段階的構築
(2)システム稼動(オンライン)中の拡張、機能の追加変更、パラレルランテスト
(3)耐部分故障性、危険分散
このコンセプトは、前回ご紹介いただいたJR東京圏運行システム管理にも応用されているそうです。そのほか、鉄鋼生産制御システムにおける段階的設備導入にも利用されています。
質問2 ミューチップの記憶容量の大きさはどれくらいですか。
回答2 128ビットの記憶容量があります。読み出し専用です。40億の4乗個のものに固有の番号(ID)を振れます。(同様のRFID、μ-Chip Hibikiの場合は、記憶容量も大きく書き込みもできます)
質問3 ユビキタス社会の実現には、個人情報の保護等のセキュリティや、故障しないでずっと稼動し続ける信頼性という点でまだ問題があるのではないのですか。
回答3 そのとおりです。まさに、セキュリティと信頼性が今後のユビキタス社会に向けた技術上の課題です。
質問4 RFID(小型電子タグ)にはGPS機能はついているのですか。
回答4 GPSのような機能はミューチップには付いていません。GPSをつけるとしたら、読み取り機のほうにつけることになります。
その他、JRシステムについての質問などもありました。ダイヤの遅れを自動的に駅ごとに制御するシステムでも最終的な判断はまだ人間にあるそうです。質問の数が多数あったので、以下は割愛して、本題のレポートに入りたいと思います。
RFID(小型電子タグ)については前回解説いただきましたので、本日はセンサネットワーク、携帯連携、個人認証とプライバシー保護についてのお話がありました。
(2)センサネットワーク
センサネットワークは小さなノードがネットワークにつながれているおり、センサで検地して、無線で外部とやり取りするというものです。無線の距離は様々です。
構造物の健全性を監視するひずみセンサや、水素ステーション向けネットワーク利用、水素検知システムなどが例として挙げられます。農業、製造業、医療、介護、ダム等の社会インフラ、物流に利用が期待されています。
今後は、様々な機器に通信機能が組み込まれてサービスを提供するシステムの普及が見込まれています。ホーム、ビル、店舗、タウンをインターネットで管理センターや情報システムと接続し、血圧計、脈拍計etcを管理していこうというものです。実際にセンサを配置した実験住宅が建てられ、実験が行われています。
(3)携帯連携
これは携帯電話と家の中のセンサを連携して便利なシステムを構築するというものです。老人の様子管理、録画、点灯、室内冷暖房、冷蔵庫管理etcを携帯電話と通じて屋外でも行うことができるようになります。まだ完全な実用化にはいたっておりませんが、ホームネットワークのプロタイプ・デモが数年前に行われています。PLC(電力線通信)を利用し電力量計にホームサーバーボードを設置することで、実際に携帯電話でリモコン操作をして、クーラーのスイッチを入れることができました。
(4)個人認証とプライバシー保護
フィジカルセキュリティとして指静脈認証を御紹介いただきました。偽造に強い次世代のバイオメトリクスとして注目されています。これは本人確認に使用される技術です。入退室管理、PCログインへ応用することができます。
指ではなく、手のひらの静脈を利用する場合もあります。日本では静脈を利用した本人確認の研究が進んでおり、銀行でも実際に使用されています。今後の経営上の問題は世界中で普及するかどうかです。
ユビキタス社会とプライバシー保護からの懸念として、スーパーの例を挙げていただきました。ドイツの大手スーパーであるメトログループによる実験店舗では、PSA ( Personal Shopping Assistant )の活用が行われています。そこでは、RFID(小型電子タグ)、センサネットワークが普通に使用されています。しかし、アメリカでは個人情報の保護を目的とした消費者団体の反対運動でこのシステムを導入できないという例もありました。
これまで、ユビキタス社会実現に向けた個別の技術の紹介を行ってきました。全体としてみると、ユビキタス情報システムはどのようなものでしょうか。具体的には、デバイスネットワーク、アクセスネットワーク、コアネットワークから構成される情報システムということができます。それでは、そのようなユビキタス情報システムが発達した社会において今後必要となるもの、問題となるものは何でしょうか。本間先生は情報化社会の今後の課題として、以下の4つを挙げられていらっしゃいました。
(1)情報化がもたらす影の低減
影とは、既に問題となっているネット犯罪、誹謗中傷、デジタルデバイド、迷惑メールなどが挙げられます。
(2)ITによる経済・社会の活性化
今特に話題になっているのは、Web2.0、ユビキタス、放送通信融合です。
(3)ITによる社会課題の解決
食の安全、子供の安全、交通事故低減、渋滞抑制、防災など、情報化した都市の問題で情報通信技術が解決できる可能性のあるものは数多くあります。
(4)企業情報システムの今後の課題
質問にもありましたが、情報漏えい防止、事業継続性確保、情報システムの生産性向上はまだまだ改善しなくてはならない問題です。
普及すると期待されながら普及しない新技術、新システム、新サービス、新事業があります。普及しない理由に仮説やモデルが立てられれば、次に打つ手を考えやすくなります。システムが普及するか普及しないかを判断するモデルを構築できれば、経営や政策に応用することができます。研究や発明がイノベーション、事業成功に結びつくまでには様々な障害があり、いかにしてそれを乗り越えるかが研究開発には必要になってきます。
このセッションにおいては、システム・サービス普及の従来の3つのモデルと、それを踏まえた上で本間先生が考案したモデルを御教授いただきました。
(1)Bassモデル
製品の世代交代も表現できるモデルです。しかし、何故普及したりしなかったりするのかという問いには答えられません。
(2)Rogersの普及理論とキャズム
新しい製品の普及の時間経過がS次カーブになる背景を考慮してモデル化したものです。
(3)Rohlfsモデル
何故普及したりしなかったりするのかという問いに答えられるモデルです。しかし、まだシンプルなモデルです。
(4)Rohlfsモデルの拡張
電子マネーサービスなどICカードホルダーの普及率と扱い店舗の普及率といった卵鶏関係での普及あるいは衰退のモデル化にはRohlfsモデルは不十分です。Rohlfsモデルの普及変数を2変数に拡張したモデルを本間先生が提案されました。
具体的に電子マネーの普及率のデータを用いたアプリケーションスタディも拝見させていただきました。
本間先生の講義は本日で終了です。次回は舩橋先生の講義の続きになります。
(2008.5.15 担当K)